2023.01.11
【前編】「生きかたを、遊ぶまち」星天qlayという挑戦 ー「人」を起点とした余白のあるまちづくりー
星川駅から天王町駅周辺のエリア、通称「星天(ホシテン)」が大きく変わろうとしている。
2002年より着工した相模鉄道本線(以下、相鉄線)連続立体交差事業が2018年に完了し、星川駅から天王町駅間の線路が高架化。まちに新たな余白が生まれた。2019年にはJR線、2023年3月(予定)には東急線と相互直通運転が開始し、都内へのアクセスも向上する。
そんな大きな流れの中で、2023年2月2日(木)、星川駅から天王町駅間の高架下に、全長約1.4㎞のエリアを5つに分けて開発する施設「星天qlay」の第1期がオープンする。
オープンを目前に控えた2022年10月、株式会社相鉄アーバンクリエイツ事業推進部長の齋賀幸治、星天qlayの設計デザイン監修を担当した株式会社オンデザインパートナーズ代表の西田司と萬玉直子、そして企画プロデュースと一部施設運営を担うYADOKARI株式会社の共同代表さわだいっせいとウエスギセイタの5人が、「星天qlay」への想い、そしてこのまちの未来を語った。
インタビューの前編では、星天qlayの開発の背景とコンセプトに込めた思いについてお届けする。
「人」の可能性にかけた、まちづくりの挑戦
齋賀:星川駅から天王町駅間の高架化によって生まれる空間を有効活用していこうというのが、このプロジェクトの発端でした。
プロジェクトを進めるにあたって開催したプロポーザルでは、YADOKARIははじめ「ニューエリート」というコンセプトでご提案してくださって、それが私の中では非常に響きましたね。
横浜駅に近い立地かつ、沿線でも比較的若者が多い星天エリアでできることを想定したときに、ちょうどYADOKARIの提案と我々の考えていることが合致して、「この場所から世界に発信していけるものを作れたら」という思いで、ぜひ一緒にやっていこうと決めました。
私自身、エネルギッシュに変化を起こせる若い人たちと若干乖離がある世代になってきたと感じているのですが、僕は若い人たちが今何を考え、何をやろうとしているのかを一緒に見たいと思っている。なので、プロジェクトに大変期待をしています。我々も頑張って付いて行こうとしているし、何をやっていただけるのかすごく楽しみです。
さわだ:どの地域を訪れても、変化のあるまちには、強いエネルギーを持ったキーマンのような存在が絶対にいると思うんです。まちのキーマンとなる人たちは、経済合理性やロジックに則ってお店を開いたり何かを始めるのではなく、人との繋がりや、「このまちは面白いことができそう」という自分の感性に従って、お店や活動に思いきり愛をつぎ込んで、まちに人々を惹きつけていく。
スティーブ・ジョブズの言葉を借りるなら、まちや世の中を変えてきたのはそういう「クレイジーな人」だと思うんです。そういう意味での、世の中の常識から少し外れた人たちは、自分の専門分野を仕事だとも思わずに、人生をかけて遊んでいて。
何にも振り回されずに、自分が得意なことで思いきり遊びながら生きているようなエネルギッシュな感性を持った若者たちが集まるまちづくりができたらと思っています。そういう人たちをまずは「ニューエリート」とご提案し、より分かりやすい表現になるよう「変化を楽しむ人」という言葉に変えていきました。
さわだ:YADOKARIが企画・運営を行うレジデンス(YADORESI・ヤドレジ)の住人や星天qlayに集う「変化を楽しむ人」たちから伝播して、星天に住む人たちが「かっこいいまちに住んでるんだな」と思ってくれたり、まちに住みたい人がどんどん増えていく流れができたらという思いで、今回「遊び」というキーワードをあげさせていただきました。
施設名称である「星天qlay(ホシテンクレイ)」には、playの「p」の一歩先の文字であり、従来の価値観にとらわれないという意味で、反転した「q」を使う遊び心と、「clay(クレイ)=粘土」のように、創造力豊かに新しいものをみんなで作っていくという思いが込められています。
上杉:「変化を楽しむ人」、「生きかたを、遊ぶ」といったワードが生まれてきた背景には、これからは場所ではなく「人」を起点にしたコミュニティ醸成や、人のパワーを再確認するまちづくりが行われていくと考えていることがあります。
萬玉:今の20代、若い世代は暮らしに対する価値観が変わってきていて、自分がジャッジしたものにはお金を払って投資をしたり、選択をする力があると思います。星天qlayのコンセプトやYADORESIの話を聞いたとき、暮らしや消費の在り方を自ら選択する力のある人たちがこれからこのまちにどんどん住む将来像が見えて、すごく腑に落ちたことを覚えています。
コロナ禍前はまちの楽しい部分は比較的都心部にあったと思うのですが、今は顔が見える関係性が築け、仕事やプライベート関係なくみんなが「生活」を楽しむ住宅地ほど、可能性があると感じるようになりました。
西田:20代の人が自分がいいなと思うことに投資する感覚って、遊ぶことに関して真剣ということだと思うんですよね。遊びってわざわざつまらないと感じることをする必要はなく、自分が共感して時間をかけたい、コミュニティを作りたいと思うからやるわけで、商品価値や損得ではない感覚があるのだと思います。
都市部ではなく住宅地を面白がるという価値の転換が起こっているときに、星天qlayが誕生するのは非常に実験的で良いと思います。こんなに実験的なことって、なかなかできない。
齋賀:星天qlayは相鉄の6大プロジェクトの中で、唯一我々が自由にできる場所というのが良かった点だと思います。6大プロジェクトも含め、我々は再開発や区画整備などを行いますが、そこには必ずステークホルダーや地権者がいらっしゃって、どうしても思い切った案に振り切れない部分があるんです。
対して星天は自社グループの土地なので、自由に使うことができる。なので何とかグループ内で承認をもらい、振り切るだけ振り切って、自分たちがどこまでいけるか試してみようと、ずっとそんな形で動いてきたと思っています。星天qlayには「これはダメ」ということは基本的にはないので。
「余白」と「遊び」が生み出すもの
西田:齋賀さんにお伺いしたいのですが、従来の開発では「余白」や「遊び」のようなコンセプトは金銭的な利益には繋がりにくく、効率性の観点では排除した方が良いと考えるのが一般的ですが、今回「遊び」に振り切った企画を採用しようと思ったのはなぜでしょうか?
齋賀:星天に関しては、従来のアプローチでいくと行き詰まるのではないかという感覚があったように思います。中目黒や下北沢の高架下のような施設を作るという方法もあると思いますが、星天は違うなと。
開発には段階がありますが、星天の第1ステージは大きなお金をかけて設備投資などをするのではなく、変化できる余白を持つほうが良いと感じていました。
余白があれば、5年後10年後にはまた違う発想のもとで、今回作ったものに付加することもできるし、交換することもできる。変えられない箱をがっちりと作るようなエリアではない、という思いは始めからありましたね。住宅が多く、都心や横浜駅からの距離感的にも、昔から下町っぽい雰囲気もあるエリアなので、少しずつ需要を作っていけば、都心部の高架下とは違う流れが生まれるのではと思っています。
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相鉄線の高架化によって、まちに新たな余白が生まれた星天。その約1.4㎞の余白を「遊び」というコンセプトのもとに実験的に開発したのが、「星天qlay」という挑戦だ。この挑戦に共鳴した「変化を楽しむ人」たちがつながり、彼らが放つエネルギーが高架下から少しずつまちへと伝播した先には、どんな未来が待っているのだろうか。
インタビュー記事の後編では、「星天qlay」という挑戦を形にするために「生きかたを、遊ぶ」というコンセプトをどのようにして設計に落とし込んでいったのか、YADOKARIが企画・運営する住まいYADORESIについて、そしてこれからのまちづくりと星天の未来について、お届けします。
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▼星天qlayWEBサイト
https://www.hoshiten-qlay.com/web/
取材・文/橋本彩香