2023.04.05
クリエイティビティで、人もまちも幸せになる循環をつくる/ハーチ株式会社
相模鉄道本線(以下、相鉄線)の高架下に作られた新施設「星天qlay」。2023年2月2日、9日に、地域の生活をサポートし、食とモノの「消費」の視点から環境や社会とのつながりを感じられるエリアであるBゾーンがオープンしました。
Bゾーンにある「qlaytion gallery(クレイションギャラリー)」は、星天の未来をクリエイションし、「星天qlay」の情報ステーションになる場として、「生きかたを、遊ぶ」を感じられる様々なテーマのもと、展示やイベントが開催される予定です。
qlaytion galleryには、星天qlay全体の企画プロデュ―スを担うYADOKARI会社(以下、YADOKARI)と、横浜市内のサーキュラーエコノミー(循環型経済)を加速させるためのプラットフォーム「Circular Yokohama(サーキュラーヨコハマ)」をはじめ、多数のウェブメディアを企画・運営をするハーチ株式会社(以下、ハーチ)のシェアオフィスが併設されています。
「社会をもっとステキな場所にするメディアカンパニー」を掲げるハーチは、星天qlayというフィールドに立ち、どのような未来を見据えているのでしょうか。ハーチの創業者であり、代表取締役の加藤佑(かとう・ゆう)さんにお話を伺いました。
クリエイティブの力で、社会をより良い方向へ
ハーチは、社会問題や環境問題への関心が高かった加藤さんが、2015年12月に創業した会社です。加藤さんが社会問題に関心を持つきっかけとなったのは、大学1年生の時に出会ったイギリスのとあるファッションブランドなんだとか。
「カッコよさに惹かれて買った服が、ファッションを通じて社会的なメッセージを発信している『KATHARINE HAMNETT LONDON』というブランドのものでした。
当時はエシカルファッションという言葉も知りませんでしたが、クリエイティブの力で社会をより良い方向へ変革するスタイルに感銘を受け、以来、自分もいつかそうした仕事をしたい思いを持ち続けていた加藤さん。
その思いが形になったハーチは、メディア事業を主軸に、世の中に少しでもポジティブなインパクトをもたらしたいという気持ちで経営しています。」
ハーチは現在、「世界がもっと素敵になるソーシャルグッドなアイデアを集めたオンラインマガジン」である「「IDEAS FOR GOOD」」を筆頭に9つのオンラインマガジンを運営しています。サステナビリティ、サーキュラーエコノミー、アート、教育など、多岐にわたる分野を取り扱っていますが、創造性に富んだハーチの記事は、どれも読み応えのある面白いものばかり。
ハーチのコンテンツの面白さの秘訣は、加藤さんの言葉から垣間見ることができました。
「サステナブルやサーキュラーエコノミーを、我慢して実践するものではなく、楽しく自然と取り組めるものに転換することが大事だと思っています。頭では理解していても、感情が伴わなければ行動に繋げるのは難しい。
僕が大学時代、『KATHARINE HAMNETT LONDON』のカッコよさに心が揺さぶられたように、いかに読者のポジティブな感情を引き起こすことができるかを常に考えています。」
同じ志を持った人々がつながる、循環型都市へ
ハーチは多数のウェブマガジンに加え、国内外のサステイナブル・ソーシャルグッドな取り組みを実際に体験するプログラム「Experience for Good」や、前述した「Circular Yokohama」(横浜市内のサーキュラーエコノミーを加速させるためのプラットフォーム)の運営にも力を入れています。
2020年に発足したCircular Yokohamaは、横浜市内でサーキュラーエコノミーに関連する活動を行う人々を訪れ、彼らの活動をマッピング、可視化することから始まりました。その過程で出会った人々と「Circular Economy Plus School(サーキュラーエコノミープラススクール)」という学習プログラムを作り、大学、行政、地元企業、NPOなど市内のプレイヤーとのつながりが生まれていったそう。
Circular Yokohamaが発足して2年が経ち、加藤さんの中に芽生えた「このつながりを点ではなく、線、そして面にしていきたい」という思いは、「YOKOHAMA CIRCULAR DESIGN MUSEUM(ヨコハマ サーキュラー デザイン ミュージアム)」の企画へと繋がっていったといいます。
YOKOHAMA CIRCULAR DESIGN MUSEUMは、横浜で循環型の事業を手掛ける企業の製品を集め、実際に見て、触って、購入できるミュージアム。市役所のマルシェやルミネ横浜での短期間の開催を経て、qlaytion galleryの記念すべき第1回目の企画展として約2ヵ月間(2月2日~3月31日)開催されています。
「YOKOHAMA CIRCULAR DESIGN MUSEUMを開催することで、同じ志を持って活動している方々がつながり、草の根レベルで循環型の取り組みが増えるきっかけになればと思っています。
循環型経済に取り組む企業の製品が集まると一気にパワーを持つので、『横浜ってサーキュラーエコノミーがすごく盛り上がっているね』という雰囲気を作って、少しでも循環型都市へ近づいていきたいです。」
余白があるまちだからこそ、できる挑戦
東京・日本橋、英国・ロンドン、そして横浜・関内にオフィスを構えていたハーチは、今回横浜オフィスを移転する形で、qlaytion galleryにてYADOKARIとのシェアオフィスを構えることとなりました。展示やイベントの際には外部の方も立ち寄れる場所として運営される予定です。
「リアルな場で身体性を伴う体験ができる機会が重要だと思う」という加藤さんの言葉通り、オンライン上に留まらないリアルな活動の場を着実に増やしてきたハーチ。「qlaytion gallery」は、「外部に開けた固定の場を持つ」という新たな挑戦になります。
加藤さんは、新たな一歩を踏み出すことができたのは、「生きかたを、遊ぶまち」という星天qlayのコンセプトが影響していると語ります。
「星天qlayのコンセプトには『生きかたを、遊ぶ』や『余白』といった言葉がありますが、真っ白なところからビルドアップしていくことに、とてもやりがいを感じています。
上手くいくか分からないことに挑戦できる環境というのはとても貴重で、そういう場があるからこそ新しいものが生まれると思うので、星天qlayには期待しています。
YADOKARIやハーチが星天で挑戦している姿を見て、『自分たちも星天で何かやってみたい』という連鎖が生まれ、まちが盛り上がっていったら嬉しいです。」
前述した第1回目の企画展「YOKOHAMA CIRCULAR DESIGN MUSEUM」のテーマは、「Playful Circularity(循環を、あそぼう。)」。
星天のコンセプトにも通ずるテーマで、「サーキュラリティ=循環性」を遊び心を持って楽しむための様々な仕掛けが用意されています。
他にも、ペットボトルキャップと引き換えに地域企業が作ったアップサイクルグッズが手に入る「循環ガチャ」の設置や、NTTデータが運営する地域活性化アプリ「みんスマ」を活用したまちの魅力の可視化など、トライアンドエラーを重ねながら、実験的な取り組みに次々と挑戦していくと語ってくれました。
「変化を楽しむ人」が集い、足を伸ばしたくなる場所へ
加藤さんはご自身の地元でもあり、横浜駅から快速で1駅の星天エリアに、横浜駅やみなとみらいなどの中心部にはない面白さを感じているそうです。
「これまでは横浜駅を目的地に、天王町駅や星川駅を通過してしまう相鉄線ユーザーが多かったと思います。
だからこそ、星天エリアを盛り上げるためにはクリエイティブの力が必要で、『変化を楽しむ人』が集う運命だったのだと思います。
僕らを含め、星天qlayや周辺のプレイヤーがクリエイティビティを発揮し、横浜駅に着く1駅手前で降りたくなるような、横浜駅から1駅足を伸ばしてもらえるような目的地になったら嬉しいです。」
さらに、qlaytion galleryでの様々な挑戦それ自体が、クリエイティビティによって社会課題にアプローチするハーチのプロトタイプにもなっているんだとか。
「クリエイティブの力によって、無駄だと思われていたものに新しい価値を見出すのが真の循環型社会だと考えています。資源も人も同じで、新しい価値を見出すことで、排除されずに全てが必要なものとして循環していくと思うんです。
qlaytion galleryは、一人一人の創造性を引き出すことによって、地域、社会、そして人の人生を良くすることができるよう、挑戦し続ける場にしたいです。」
「遊ぶ」とは、自分の可能性を信じられること
最後に、加藤さんの思う「生きかたを、遊ぶ」について伺いました。
「人は誰しも才能を持っていて、人生のなかでそれをどう活かすのか、無限の可能性があると思います。一人一人が自分自身に与えられたギフト、才能を引き出すことができれば、きっとそれぞれが良い人生になっていくのではないでしょうか。
世界でまずは一人、自分を幸せにする。もしこれを全員ができたら、みんなが幸せですよね。でも実際は、自分を幸せにする一番の近道は、誰かを幸せにすることだったりする。だからこそ、人との関係やつながりが生まれるのだと思います。
自分の可能性を信じられることが、『遊ぶ』ということなのかなと思うし、一人一人が自分の可能性を信じられる社会になったらと願っています。」
クリエイティブの力によって人の心を揺さぶり、社会課題へのアプローチを続けてきたハーチ。
創業以来積み重ねてきたハーチのクリエイティビィティが、星天qlayの着火剤となり、「1駅足を伸ばしたくなる」この街の新たな挑戦を牽引していく姿が楽しみです!
取材・文/橋本彩香