星天qlayとは

2024.06.28

感性の力で、自分だけの織り物を作る/手織工房じょうた 横浜星川工房

ものづくりや創造ができる場を集約した星天qlayのCゾーンには、自分の感力を活かした「さをり織り」ができる工房があります。伝統的な模様や誰かが作った図案に倣うのではなく、自分の心のままに自由に作品を織るさをり織りは、60年近く前に城みさをさんが創り出しました。

そのお孫さんである城達也さんが2007年に吉祥寺の地でスタートしたのが、「手織工房じょうた」。美術に造詣がなくても、手先が不器用でも、誰でも”自分の作品”を作ることができる「とことん自由な織り物」であるさをり織りを広めるために作られた工房です。

そんな手織工房じょうたが、吉祥寺、自由が丘に続いて、神奈川県初の工房を星天qlayにオープン。今回はオーナーの城さんに、さをり織りの魅力、そしてさをり織りを通して伝えたい思いについてお話を聞きました。

 

さをり織りとは?

城さんのおばあ様である城みさをさんが生んだ「さをり織り」は、自分が持っている感性の力「感力」を活かすことが大切な織り物なんだとか。城みさをさんのお名前を文字って付けられた「さをり織り」という名前には、人との違い「差異を織る」という意味も込められているそうです。

城さん「さをり織りを一言で言うと、何をやってもいい、とことん自由な手織りです。織り物というのは文字ができるより前から世界中に存在していて、伝統的な模様や図案があったり、下絵を書いて糸を入れる順番を計算して柄を作ったりと、織る前に何を作るか決めて計算しながら織るのが一般的です。ですがさをり織りでは、手で織るのに機械と同じことをしても面白くないという考えが根底にあり、誰かが作ったデザインを再現したり、『こういうものを織ろう』と計算するのではなく、自分の感力に従って好きように織るのが特徴です。

僕は美大や専門学校に通ったこともないし、家庭科の授業で針に糸を通すのに30分かかっていたくらい不器用ですが、さをり織りでは誰でも自分の織りができるんです。海外でワークショップをすることもあるのですが、感性を使うという部分においては器用さも性別も年齢も国境も関係なくて、ただ人間の違いだけがある。それがさをり織りの面白いところだなと思います」

 

お店ができるのは、地域の営みがあってこそ

「手織工房じょうた」のサイをモチーフにしたロゴマーク

10代の頃から、いつかさをり織りを仕事にしたいという思いがあったという城さん。大学卒業後に就職した会社を3年で退職し、東京のさをり織り教室でスタッフとしてさをり織りのキャリアをスタートしたそうです。

その教室で7年ほど働くうちに、「僕みたいな素人が織っても表現する面白さを感じられるなら、もっと一般の人にもさをり織りを広めることができるのではないか」と悶々とした思いを抱くようになり、2007年に独立して吉祥寺で「手織工房じょうた」を立ち上げました。

城さん「吉祥寺の工房には神奈川やさらに遠方から時間をかけて足を運んでくださる方も多かったので、横浜駅から数分の星川駅はさをり織りを多くの人に体験してもらうには良い立地だなと思いました。また、お店を開くことができるのは、その地域で暮らしている人あってのことなので、じょうたでは地域と繋がることをとても大切にしています。なので地域との繋がりを大切にする星天qlayコンセプトに共感したのも、出店を決めた大きな理由でした。

地域と繋がるために、ぜひテナントさんともコラボレーションをしていきたいです。例えばクリエイター向け創作スタジオのPILEさんでは、新人アーティストを支援しようと動いていらっしゃるので、織り物をしている人とうまく繋げることができたら面白いだろうなと思っています。向かいに店舗を構えているSAI.さんはお弁当の販売もしていて、じょうたに通っている方が昼食を買いに行ったりしているので、お弁当とさをり織りの体験をセットにしたプランを作るのも楽しそうだなと思っています」

 

心地よく織ることのできる工房づくり

工房によってプランや置いている糸に違いはなく、どこの工房に行っても、「じょうたのさをり織り」ができることにこだわっていると語る城さん。さをり織りの世界では『芽が出ようとするのを待つ、いじれば壊れる』という言葉があり、織る人の感力を何よりも大切に工房を営んでいるそうです。

城さん「困っているお客さんがいるとつい手助けをしたくなるけれど、それはその人の感力の芽を止めることになるので、スタッフには仕事だと思って手を出しすぎないでとよく伝えています。思っているよりもスタッフの言葉は重くて、一度ついてしまった正解のイメージを取り去るのは大変なので、感性に触れるアドバイスをしないよう徹底しています。

お客さんには、最初からイメージ通りに織ることはできないので、そのイメージを諦めてくださいと伝えています。思い描いたものを諦めず頭で考える人ほど失敗ばかり目につくので、『こんなはずじゃなかったのに』と、どんどんネガティブな方向に行ってしまう。だけど諦めた瞬間に世界が広がるので、『狙い通り』を手放して自由になることはさをり織りをするうえで大事なポイントです」

手織工房じょうたでは、できる限り心地良い状態で織り物ができるよう会員制度にも工夫が。会員になると予約が不要で、営業時間内であればいつどれだけ工房にいてもOKだと言います。

城さん「習い事の時間に間に合わせるために急ぐことなく、まちで見つけた面白そうなお店に入ったり、コーヒーを飲みたくなったらカフェに寄ったりしたほうが心が豊かだと思うので、会員になると事前予約不要で好きな時間に通っていただくことができます。

2時間1コマという形にすると、雑談する余裕もなくなってしまうので、営業時間はいつ来ていつ帰ってもいいという形にしています。来たけど気分乗らない時は本を読んでいてもいいし、無理をして織らなければいけないものでもないので、サードプレイス的に使っていただけたらと思っています」

 

美しさとは、いかに自然体でいられるか

最後に、城さんの考える「生きかたを、遊ぶ」について聞きました。

城さん「『美しいということはいかに自然に近くなるかということ』。これは祖母が口にしていた言葉です。道具にも遊びが大事だと言われるように、遊びというのはゆとりや余裕を表す言葉でもありますよね。心が自然体でいるためには遊びが必要で、『生きかたを、遊ぶ』とは心にゆとりを持ち続けている状態なのかなと思います。

星天qlayもそうですが、環境としていろいろな遊びや遊べる場が用意されていても、その人自身が『遊んでいる』という満足感を得られなければ、物理的に遊んでいない人と変わらないかもしれないですよね。逆に客観的に見ると遊んでいないけれど、『自分はこの瞬間遊ぶことができた』と喜びを見い出している人がいたら、その人の方が心が満たされていて、人生を遊んでいるかもしれない。最終的には自分の心でいかに自分が遊べたと思えるか、満足度を感じられるかだと思うので、そこに繋がるものが作れたら、きっと星天はすごく良いまちになるんだろうなと思います」

 

取材・文/橋本彩香

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